賢者の塔 68F/No.0231
アニメ化もされた人気漫画「きまぐれオレンジ☆ロード」を、漫画・アニメ作品をゲーム化することに定評のあるマイクロキャビンがアドベンチャーゲーム化した作品。果たしてその出来は?
≫ENTER
いらっしゃいませ!
2020年10月6日(この記事を書いている時点では先月)、80年代に人気を博しアニメにもなった漫画「きまぐれオレンジ☆ロード」の作者、まつもと泉先生が61歳でお亡くなりになりました。私も当時非常に楽しませていただいた作品でしたので、今回の賢者の塔68Fでは亡き先生を偲んでこちらの作品を取り上げさせていただこうと思います。
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きまぐれオレンジ☆ロードとは
原作、及びアニメについて
「きまぐれオレンジ⭐︎ロード」は1984年から1987年まで「少年ジャンプ」で連載された「まつもと泉」氏の漫画で、1987年にはテレビアニメとして48話が放送され、さらに1989年からはOVAとして8話、そして劇場版アニメまで製作された人気作品である。
物語としては、とある事情で町に引っ越してきたばかりの主人公「春日恭介」は、散歩の途中に長い階段で大人びた美少女「鮎川まどか」と知り合う。翌日恭介が転校先の学校で彼女と偶然出会うのだが、なんと彼女は学校でも名の知れた不良だったのである。さらに恭介はそのまどかを姉のように慕う、幼さの残る美少女だがやはり不良の「檜山ひかる」とも出会う。
恭介とまどかはその後徐々に惹かれあっていくのだが、ひかるがひょんなことから恭介を好きになってしまい、恭介への気持ちをオープンにして迫っていくひかる、ひかるを応援したい気持ちと恭介への気持ちとで素直になれないまどか、まどかのことが気になりつつもぐいぐい来るひかるに流される優柔不断な恭介、この3人の微妙な三角関係が成立してしまうというラブコメものである。
ちなみに本作品には、春日恭介が超能力者であるという特殊な要素が存在している。さらに彼の2人の妹、いとこの姉弟、祖父母まで超能力者という超能力一族なのである(母親も超能力者だが既に他界、父親のみ普通の人)。しかしだからといって異能力バトルのようなものが起きるわけではなく、この作品における超能力は恭介、まどか、ひかるら3人の関係を近づけたり遠ざけたりより複雑にする1つのスパイスとして用いられていた。
本当にこの鮎川まどかという女性が素晴らしくてのう…わしと同年代の男子達なら当時絶対心惹かれたと思うぞい
ゲーム版の基本情報
タイトル:きまぐれオレンジ☆ロード 夏のミラージュ
ジャンル:コマンド選択式アドベンチャーゲーム
発売年:1988年
販売/開発:マイクロキャビン
発売機種:PC-9801、PC-8801、MSX2など
※使用している画像は指定が無い限りPC-88版のものです
決断を迫られる恭介の物語
春日恭介は待望の夏休みを迎えるが、彼の思い人である鮎川まどかは夏休みと同時に両親のいる海外に旅行に行ってしまう。
まどかのいない夏休みを無気力で過ごす恭介の前に祖父が現れ、夢のお告げにより我ら一族の超能力はまもなく消失する。それが嫌なら今すぐ1人の女性に決めて、結婚して孫を作れと無茶な要求をしてきた。
まどかかひかるか、どちらにも決められない恭介の前に、謎の美少女「広瀬さゆり」が現れて…。
本作のストーリーそのものは完全なオリジナルじゃが、ところどころに「漫画(アニメ)で見たことある!」というようなシーンが入っていたりするのう。あとこの手の作品には珍しくゲームオリジナルキャラはおらず、全員ちゃんと原作に登場するキャラクターなんじゃよ。
主な登場人物
■主要人物
《春日 恭介》
原作漫画の主人公であり、本作の主人公。どこにでもいる普通の男子高校生なのだが、実は超能力者で時間を遡ったり、テレポートなどの能力が使える。まどかのことが好きなのだが非常に優柔不断で押しに弱く、ぐいぐいくるひかるに対してはっきりした態度が取れないでいる。現在想い人のいない寂しい夏休みを過ごしている。
《鮎川 まどか》
本作のヒロイン。学校では不良として名が通っているが、容姿端麗のうえ成績は優秀、運動神経も抜群であり、両親とも高名な音楽家という実はお嬢様。両親がいつも海外にいるためか、寡黙であまり自分の気持ちを表に出さないタイプだったが、恭介との出会いで少しずつ普通の女の子に変わりつつある。恭介のことが気になってはいるが、ひかるの手前気持ちは隠している。
《檜山 ひかる》
本作のもう1人のヒロイン。まどかを姉のように慕っており、学校ではやはり不良として知られている。まだ幼さの残る美少女で、本当は凄く明るい天真爛漫な性格。恭介が誰もいないと思って超能力でバスケのゴールにロングシュートを決めたのを目撃し一目惚れしてしまう。まどかと違いオープンに恭介への思いをアピールしているが、まどかの気持ちには気がついていない。
■その他登場人物
《春日 隆》
恭介の父親でプロカメラマン。いつもゆったりしていてあまり怒ったりしないが、父親らしくよく恭介にアドバイスを送る。春日家では珍しい普通の人。
《春日 まなみ》
恭介の妹でくるみとは双子の姉妹。超能力者ではあるが、しっかりもので春日家では他界した母親に代わって家事全般をこなしている。まどかのファン。
《春日 くるみ》
恭介の妹でまなみとは双子の姉妹。まなみとは正反対におてんばで考えなしに超能力を使うため、春日家はこれまでに7回も引越しを余儀なくされている。ひかるのファン。
《春日 あかね》
恭介のいとこで一弥の姉。ボーイッシュで男勝りな美少女。やはり超能力者で、1人の人物に対してのみ自分の姿を別人にみせる変身能力を持つ。
《春日 一弥》
恭介のいとこであかねの弟。まだ幼い生意気なマセガキ。同じく超能力者でテレパシーや、誰かと頭をぶつけるとぶつけた相手と精神を入れ替えられる能力を持つ。顔が恭介の幼い頃そっくり。
《おじいちゃん》
恭介の祖父。全能といって良いほどの超能力者で、田舎でおばあちゃんと二人で暮らしている(ちなみにおばあちゃんも超能力者)。夢で告げられた予言を恭介に伝えるために田舎からやってきた。
《マスター》
まどかがアルバイトしている喫茶店「アバカブ」のマスター。実は恭介とまどか、ひかるの関係に気がついており、いろいろ気を使ってくれる良い人。
《広瀬 さゆり》
恭介と同じ学校に通うツインテールの美少女。本作におけるキーパーソン。
画面構成とシステム
本作のゲーム画面は、メイン画面、サブ画面、コマンド画面、メッセージ表示エリアで構成されている。メイン画面には基本的に今いる場所の風景が描かれ、そこに誰かしら人物がいればその人物が表示されるが、入力したコマンドによりイベント絵や漫画のコマ割りのようなカットインが入る場合もある。サブ画面には、基本的にいまいる場所がわかるような風景が描かれているが、ゲーム中にアイテムを拾ったり、拾ったアイテムをみたりするとそのアイテムの絵が表示される。
贅沢を言えばメイン画面をもうちょっと大きくして欲しかったのう…
コマンド画面には、移動、話す、見る、調べる、取る、使う、持ち物、設定変更などがあり、それぞれ選択後にその対象を選択するサブコマンドが表示される。メッセージ表示エリアには、状況により様々なメッセージが表示されるのだが、基本的に一文字ずつ表示されていくので表示がやや遅い。しかしコマンドの設定変更でメッセージの表示速度を変えられるほか、表示最中にシフトキーを押すとメッセージが瞬間表示されるという機能も付いていた。
ゲーム中は移動コマンドで様々な場所に移動できるが、場所によってそこからはいけない場合、そこからしかいけない場所が多い。「春日家の居間」からの移動が一番移動できる場所が多く、そこから中継地点を挟んで目的地にというパターンが多いので、行きたい場所へのルートがわからなくなったら、一旦春日家の居間に戻ってから移動すると良い。またゲームのセーブも春日家の居間でしかできない為、必然的にここがゲーム中の拠点と言える。
春日恭介はいま夏休みなわけで…。
本作はプレイヤーが「春日恭介」となって、「きまぐれオレンジ☆ロード」世界の夏休みを体験するという内容のアドベンチャーゲーム(以下:AVG)である。一応最初におじいちゃんからまどかかひかるかどちらか決めて結婚しろ!という指示を受けるのだが、だからといって結婚どころか誰かひとりに決めるなんて原作世界をぶっ壊すようなストーリーではないし、それが目的でもない。ただ恭介となって夏休みを過ごすだけである。
とはいえ、恭介の夏休みを一日単位で過ごしていくゲームかというとそういうわけではない。思い出の公園(百段階段)に行ってみたり、まどかがバイトしている喫茶店「アバカブ」に行ってみたり、いとこのあかねと海に行ったり、まどかとディスコに行ったり、ひかると電話したり、妹(くるみ)とけんかしたりと、いろんな場所にいっていろんな人と話してストーリーを進めていくと、いつの間にか夏休みの最終日になっているというものである。
夏休みを満喫していたらいつの間にか最終日、というのは子供の頃の悪夢じゃのうw
このように、本作は一般的なAVGのように何か大きな目的(謎の解明など)を持って行動したり、様々なアイテムを探して拾って人に渡して先へ進んでいくというわらしべ長者タイプのものでも無く、物語が進むごとに起きる出来事や問題にプレイヤーが恭介としてそれぞれ対応や行動をしていくというものなので、あまり構えずに気楽にプレイできるゲームになっていた。
春日恭介は超能力者なわけで…。
本作には「持ち物」そして「使う」のコマンドがあることからも解るように、ゲーム中恭介が何かを拾って使用する場面が存在する。しかし先ほども行ったように本作は一般的なわらしべ長者タイプのAVGではないので、そんなに何個もアイテムは存在しない(全部で3個程度)。
しかし持ち物は少なくとも「使う」は非常に重要なコマンドになっている。それはアイテムの数が少ない分それぞれが重要なものだということもあるが、それ以外にも「使う」ものだあるのだ。
アイテム以外に使うもの、もし原作やアニメに触れたことがある方ならピンと来るかもしれない。そうそれは「超能力」のことだ。最初のほうで話したが、この物語の主人公である春日恭介(とその一族)は超能力者なのである。
他の人にばれるとまた引っ越す羽目になるので隠してはいるが、ときおり恭介はこっそり超能力を使って問題解決したり、それによって逆にひどい目にあったりしている。それと同じように本作でもゲーム中に超能力を使うことが出来るのである。
しかもこの超能力は恭介自身が使うだけでなく、恭介の周りの家族やいとこも恭介に超能力を使ってくる。そしてそれによってトラブルが起きたりするのは「きまぐれオレンジ☆ロード」の定番であり、ゲーム中に恭介が超能力を「使う」という部分も含めてその辺の原作感もうまい感じでゲームに盛り込まれている。
ただ逆に「超能力が使える」という部分を意識していないと進行に詰まってしまう場面もあったりするのだが。
春日恭介は優柔不断なわけで…。でも?
原作「きまぐれオレンジ☆ロード」において、主人公である春日恭介は非常に優柔不断で、押しに弱く、そしていろいろと間が悪い。ひかるに押し切られてデートに行くと、途中でまどかに出会ったり。やっとの思いでまどかをデートに誘ったのに、デート中にひかるに出会ったり。
タイミングの悪い場所に出くわしてしまったりと、優柔不断で押しに弱く間の悪いことで本当に色々と問題が起こったので、読んで(観て)いる私たちもハラハラしていたものである。
そして本作でも同じように春日恭介の優柔不断さ、押しへの弱さ、間の悪さを体験することが出来る。海外から帰ってきたまどかと海にデートに行けば海に来ていたひかると遭遇し、ひかるにデートに誘われれば途中でまどかに会う。
そして広瀬さゆりに強引に迫られ断ることも出来ず、押しきられて○○してしまったところをまどかに目撃される(どんだけ間が悪いんだ)などなど、原作張りの春日恭介を体験できてしまうのだ。
逆にその優柔不断さをなんとかしようとして、逆にそれが仇になって失敗してしまうのも原作あるあるじゃなw
本作ではこの「広瀬さゆり」という少女がキーパーソンとなっている。
彼女は原作にしか登場しないが美男子ハンティングを得意とする策士で、本作でもまどかとひかるという二人の美少女に囲まれている恭介に興味を持ち、恭介をまどかとひかるから奪おうと画策する。実は彼女への対応次第でバッドエンドを迎えてしまう場合があるのだが、そこは恭介であるプレイヤーが例え優柔不断で押しに弱い恭介であっても、本当に大切なのはまどかとひかるだ!というところを行動で示す必要があるだろう。
《最後に》アニメ原作AVGとしては秀作
本作はこの手の漫画アニメ原作のAVGとしては非常に優秀な出来だといえるだろう。
ストーリーはオリジナルでも原作の世界観を逸脱しない雰囲気になっているし、登場キャラクターもゲームだけのオリジナルキャラは登場せず、全員原作やアニメに登場しているキャラクター達なので原作(アニメ)ファンとしても非常に安心してプレイできるように作られている。
またAVGとしても、ありがちな全コマンド実行しないと先に進めないというような仕組みも無く、正解コマンドを知っていればすぐに先に進むことが出来るようになっている。
そしてその「正解コマンドを知っていれば」というところで本作にはちょっと面白い仕掛けが用意されていた。というのも本作には2箇所ほど選んだコマンドが正解か不正解かでストーリーがちょっと分岐する場所があるのだ。
ひとつ例をあげると、ゲームの序盤で恭介はひかるが車に跳ねられそうになる場面に遭遇する。ここで選択するコマンドが不正解だとひかるは車に跳ねられてしまうのだが、初回プレイではまず正解は解らない。しかし不正解を選んでもバッドエンドになるわけではなく、その後恭介はひかるを助けるヒントを得て彼の能力であるタイムリープによって、ひかるが車に跳ねられそうになる場面に戻ってくる。
そしてここで正解のコマンドを入力することでひかるは助かるのだが、ではもし最初に正解のコマンドを実行していたらどうなったかというと、普通にひかるは助かってそのままストーリーも進んでいくのだ。要するに恭介がひかるを助けるために行動してタイムリープで戻ってくるという箇所をまるまるショートカットできてしまえるのだ。
ありがちなAVGであればプレイ時間を稼がせるためにも、最初は正解がわかっていても実行できないようにしそうなものだが、これは非常に思い切った手段であり良心的だなと感じた。
本作は作中に原作やアニメで見たようなシーンや台詞が含まれていたり、作中で流れるBGMが全てアニメのオープニング、エンディング曲だったり、原作やOVAにしか登場しないようなキャラクターが登場したりとファンなら結構満足できるであろう内容になっている。逆にファンじゃない人には面白みが伝わらない部分も多いのだが、この手のゲームを買う人はそもそもファンが多いであろうからそこも問題ないだろう。さすがこの手のゲームを作りなれているマイクロキャビンといったところだろうか。
では最後に。
本作はまだ子供でアクションとかSFとかそっち系の作品ばかり読んでいた当時の自分にとって、ちょっと大人の青春ラブコメという新しい世界を教えてくれた作品であり、鮎川まどかというクールでミステリアスな美少女には本当にドキドキさせてもらいました。
本当に良い作品をありがとうございました。
改めて、まつもと泉先生のご冥福をお祈りいたします。
コメント
マイクロキャビンのAVGできまぐれオレンジロード出てたんですね
原作にすごいハマってたのに記憶に無いです
>>1
そうなんですよ。マイクロキャビンはアニメ作品のゲーム化も多くて有名なのはめぞん一刻とかですが、他にもうる星やつらやホワッツマイケルなんかも出ていましたねw
>>3
青春に彩を与えてくれた作品だったので、本当に残念です。